メニュー

① 悩める中学生のキミへ【10代のキミに贈る本】

知らない世界を想像させてくれる本との出会いが、もしかしたら人生に大きな影響を与えてくれる一冊になるかもしれません。悩める10代のみんなにエールを込めて、人生の先輩たちがおすすめの本を紹介してくれます。

富山大学人文学部教授 中島淑恵さんより

今回は、学校の教科書に出ていない本の中から、いろんな悩みを持ち始める中学生のみんなに読んでほしい3冊を選びました。読む時の年齢や心境によって、同じ本でも捉え方は変わってきますが、ぜひ、今の素直な気持ちで読んでみてください。 

星の王子さま(Le Petit Prince) サン・テグジュペリ作/内藤濯訳 

日本語訳だけでも20冊以上出版されている人気作ですが、みなさんに読んでもらいたいのが1953年に一番最初に翻訳され、お父さん、お母さん世代が学生の頃に読んだものと同じ内藤濯さん翻訳(岩波文庫刊)の一冊です。可愛らしいメルヘンな物語と思われがちですが、実は“孤独”をテーマにしていて、生きるとはどういうことか、孤独って?連帯って?と多様なテーマを投げかけてくる作品です。できればご家族で読んでほしいと思います。

人間関係に悩む時に

 主人公の「わたし」は、砂漠でひとりの男の子と出会います。その子はずっと一人で星に住み、“寂しい”という感情すら持たなかったのですが、自分の星に突然生えてきたわがままなバラに振り回され、「なんでこんなバラのために僕が頑張らなければいけないの?」と葛藤し、旅に出ます。様々な星をめぐり、いろいろな星の住人と出会う中で、男の子は他者とかかわることを少しずつ学んでいきます。地球では砂漠に降り立ち、友だちになれそうな狐や、分かり合えそうな「私」という孤独な飛行士と出会いますが、お互いの間の距離はなかなか埋められません。

親を煩わしく感じ、「一人で自由になりたい」と思ったり、友達、先輩、恋人との付き合いにも難しさを感じる中学生時代。本当に誰もいなくなったら?という世界を想像してもらうには良いきっかけになるでしょう。

原作は、一年頑張って勉強すれば読めるくらいの分かりやすいフランス語で書かれています。日本訳との違いも楽しめるので、ぜひフランス語を学ぶきっかけにしてもらえたら嬉しいですね。

銀河鉄道の夜 宮沢賢治

こちらも孤独を背景に描かれていますが、“友情”についてスポットを当てた物語です。家庭環境に問題を抱え、いじめにあう主人公の男の子が、うっすらと“友達”を感じていた唯一の存在と、銀河鉄道に乗ることになります。しかし、お互い一歩を踏み出す勇気が持てず、親友と呼べる関係になれないまま最後は離れ離れになってしまう。悲しく、せつない物語の最後は、それでも光をあたえてくれる作品となっています。

 友情ってなんだろう?

私自身、大学で学生たちを見ていて、最近は昔に比べて友達同士の関係が希薄になっているなという印象を持っています。なんでも相談できたり、一緒に泣いたりできる親友を持たずに、遊びたい時には遊ぶけど、必要のない時には一人や家族を優先する、ドライな関係が目に付きます。そこには、「深入りして傷つきたくない」というネガティブな心理が働いていることも、大きな原因だと考えています。

しかし、人生を生きていく上で、同世代の友達の存在は必ず支えになってくれると私は思っています。なぜいじめちゃいけないのか、なぜ人は守り合わなければいけないか、友達を作るってどういうこと? 様々なヒントが隠れているこの作品を読んで、みんなにも一緒に考えて欲しいと思います。

海と毒薬 遠藤周作 

ちょっとシビアなテーマですが、早い時期に背伸びしてでも読んでほしい作品の一つです。特に周りから優等生に見られているような子には、是非おすすめです。

戦時中の大学病院を舞台に、アメリカ軍捕虜の生体解剖に医学生たちが参加させられるという話。出てくる医学生はいわゆる優等生ばかりで、倫理的に良くないことはわかっていても、目上である医者の指示には「YES」と答え、仕事を全うします。日本にありがちな同調圧力。最近のさまざまな社会問題とも重なる、非常に考えさせられる内容です。

正義って何だろう?

捕虜は、お医者さんの言うことだからと安心して身を委ねるのですが、結果的にその信頼を悪い方向に利用し、信頼を裏切る行為をしてしまう。私自身も中学時代にこの本を読み、すごくショックを受けました。優秀な人間が社会で成功するためには、犠牲を出しても良いのか? ドストエフスキーの『罪と罰』に通じる部分があり、人間の本質に迫り、正義とは何かを問うテーマになっています。

 命の大切さ、人種差別、正悪の判断、人間の卑怯な部分…いろんな要素がリアルに描かれていて、難しいテーマかもしれませんが、人格形成に大切な時期となる中学生時代に、自分を見つめ直すきっかけになればと思います。

 


<教えてくれた人>
中島淑恵 富山大学人文学部教授

フランス文学と比較文学の研究に携わり、ヘルン文庫(小泉八雲旧蔵書)の書き込み調査を研究テーマの一つとして活動。