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㊲和解(「さびしがり屋」ハルコ:その13)【私の出会った子どもたち-いじめと向き合ってきた「けん玉先生」の歩み-】

いじめ、不登校、暴力行為など、さまざまな問題を抱える子どもたち。元小学校長の寺西康雄さんは、彼らとけん玉を通して接することで心の扉を開いてきました。長年の教員生活で出会った子どもたちの姿から「いじめを生まない学級・学校づくり」を考えます。

「いじめを考える授業」の最終回、私はアキコの作文を朗読し、自分の思いや願いを語った。

それから一週間後、私はハルコの家を訪れた。
ハルコと母親、祖母が玄関先で待っていてくださった。
応接間に案内され、私はハルコの学校での近況について報告した。
そして、最後に次のように言った。

「ハルコさんは孤独だったのです。さびしかったのです。クラスの子どもたちは、この二週間、ハルコさんの『よいところ』をたくさん見つけました。ハルコさんは多くの友達ができ、学校が楽しいと言ってくれました。もう二度とさびしい思いをさせたくありません。

今、ハルコさんが求めているのは、争いごとのない家族です。どうか、ご家族が仲良く力を合わせ、平和な家庭を築き上げていってください。よろしくお願いします」

私が話し終えると、母親はハンカチで目頭を押さえ、涙声で話し始めた。

「私が悪かったのです。ついイライラして子どもに当たることもありました。だから、甘えることができなかったのだと思います。さびしかったのだと思います。それでも、学校では、そんなにがんばっていたのですね。嬉しいです。ハルコ、ごめんね…」

挿絵・金子浩子

祖母も泣きながら隣のハルコの手を取った。

「ハルちゃん、あんた一つも悪ないがやよ。ばあちゃん一番悪いがやちゃ。ごめんね。…ハルちゃんがこんなにがんばっとったこと、ばあちゃん一つも知らんだわ。…ハルちゃん、やっぱり偉いわ。…お父さんもハルちゃんがこんなにがんばっとること聞いたら、きっと喜ぶわ…」

ハルコは目に涙をため、頬を紅潮させながら静かにうなずいた。

2学期が終わり、冬休み中のある日、ハルコの母親から電話があった。

「先生、ハルコは家でもずいぶん変わりました。私やお父さん、おばあちゃんに優しくしてくれるようになりました。言葉遣いも穏やかになりました。お金の無駄遣いがなくなりました。親に無断で街へ出かけるようなこともなくなりました。

いろんな友達と仲良く遊ぶようになりました。勉強もよくするようになりました。家の仕事を頼んでも文句を言わずにやってくれるようになりました。このようにハルコがどんどん変わっていくので、これまで子育てには無関心だったお父さんも『ハルコ、近ごろ、どうなったが?』と驚いたり、喜んだりしています。

おばあちゃんとの関係ですが、先生が来てくださった日の夜、さっそくお父さんにも入ってもらって家族会議をしました。それからは、わだかまりがとけ、おばあちゃんに私の方から声をかけるようにしています。ハルコも家族みんなと楽しく話をするようになりました」

〔付記〕事例はプライバシーへの配慮から登場人物を匿名とし、事実関係についても若干の修正が施してあることをお断りしておきます。

◆寺西 康雄(てらにし・やすお)◆

 富山県内の小・中学校と教育機関に38年間勤務し、カウンセリング指導員、富山県総合教育センター教育相談部長、小学校長等を歴任。定年退職後、富山大学人間発達科学部附属人間発達科学研究実践総合センターに客員教授として10年間勤務し、内地留学生(小・中・高校教員)のカウンセリング研修を担当。併行して、8年間、小・中学校のスクールカウンセラーを務める。

 現在は富山大人間発達科学研究実践総合センター研究協力員。趣味・特技はけん玉(日本けん玉協会富山支部長、けん玉道3段、指導員ライセンスを所持)。