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(32) 被害者、加害者、観衆、傍観者を演じる(「さびしがり屋」ハルコ:その8)【私の出会った子どもたち-いじめと向き合ってきた「けん玉先生」の歩み-】

いじめ、不登校、暴力行為など、さまざまな問題を抱える子どもたち。元小学校長の寺西康雄さんは、彼らとけん玉を通して接することで心の扉を開いてきました。長年の教員生活で出会った子どもたちの姿から「いじめを生まない学級・学校づくり」を考えます。

他人の心の痛みは、そんな簡単に分かるものではない。

そんな思いから、他人の心の痛みを想像し、共感できる力を体験的に身に付けようと「劇化(シナリオづくり)」と「ロールプレイ(役割演技)」を、いじめを考える授業に取り入れることにした。

《劇化(シナリオづくり)》
子どもたちに「仲間外れ」のテーマでシナリオを作るよう指示した。まずは、一人一人が自分自身の体験や身近な事例をもとに粗筋を考え、次に、各自が書いた粗筋を持ち寄ってグループで話し合いながらシナリオを練り上げる。

ハルコたちのグループは〈ある子が生意気だという理由でみんなから嫌われ、仲間外れにされる〉というシナリオを作った。

《ロールプレイ(役割演技)》
それぞれのグループがシナリオをもとに、被害者〔いじめられっ子〕役、加害者〔いじめっ子〕役、観衆〔はやしたてたり、おもしろがったりして見ている子〕役、傍観者〔見て見ぬふりをする子〕役を交代して、ロールプレイを実施する。

初めのうちは、どの子も恥ずかしさや緊張感などからぎごちない演技が続いた。そこで私は、演じることの上手下手は関係なく、できるだけその役になりきって自分なりに演じるよう言葉がけをした。ロールプレイを実施する前には、けん玉遊びをウオーミングアップとして取り入れた。そのことによって、心と体がほぐれ、無理なくわざとらしくない演技ができるようになっていった。
 

このような授業を3回行った後、教卓を取り除いた黒板の前を「舞台」にして、1班から6班までのすべてのグループがクラス全員の前でロールプレイを発表した。

以下はハルコたちの6班のロールプレイの一コマである。

「いじめられっ子」役のハルコが一人で学校の廊下を歩いている。
反対側から「いじめっ子」役のケンタ、コウタ、ユウコ、マサコが近づく。

ケンタ「ハルコ、おまえは近ごろ生意気だぞ!」

コウタ「もう、これから一緒に遊ばんからな!」

ユウコ「あんたと一緒におったら、臭くなっちゃう!」

マサコ「あんたなんか、どっかへ転校しちゃえば!」

ハルコ「お願い、私を仲間外れにしないで!」

ケンタ・コウタ・ユウコ・マサコ「…(そっぽを向いて無視をする)」

ハルコ「ねえ、お願い…どうして無視するの…」

ケンタ・コウタ・ユウコ・マサコ「…(無視を続ける)」

ハルコ「(突然、土下座する)仲間に入れて…ねえ、お願い…」

  「はい、ストップ」

挿絵・金子浩子


「演者」である6班の子どもたちの迫真の演技に「観客」である1~5班の子どもたちは固唾をのんで見ていた。

〔付記〕事例はプライバシーへの配慮から登場人物を匿名とし、事実関係についても若干の修正が施してあることをお断りしておきます。
 

◆寺西 康雄(てらにし・やすお)◆

 富山県内の小・中学校と教育機関に38年間勤務し、カウンセリング指導員、富山県総合教育センター教育相談部長、小学校長等を歴任。定年退職後、富山大学人間発達科学部附属人間発達科学研究実践総合センターに客員教授として10年間勤務し、内地留学生(小・中・高校教員)のカウンセリング研修を担当。併行して、8年間、小・中学校のスクールカウンセラーを務める。

 現在は富山大人間発達科学研究実践総合センター研究協力員。趣味・特技はけん玉(日本けん玉協会富山支部長、けん玉道3段、指導員ライセンスを所持)。