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㉙ 詩「障がい者のほうが…」(「さびしがり屋」ハルコ:その5)【私の出会った子どもたち-いじめと向き合ってきた「けん玉先生」の歩み-】

いじめ、不登校、暴力行為など、さまざまな問題を抱える子どもたち。元小学校長の寺西康雄さんは、彼らとけん玉を通して接することで心の扉を開いてきました。長年の教員生活で出会った子どもたちの姿から「いじめを生まない学級・学校づくり」を考えます。

人目をはばかるようにしながら来校したハルコの祖母は「ここだけの話にしておいてほしいのですが…」と何度も念押ししながら嫁との確執、孫への思い入れ、自らの苦しい立場などを話し続けた。
 
 それから一週間経った。いつの間にか「マニキュア塗り好会」は解消され、クラス全体が落ち着きを取り戻した。ハルコは互いに反目していた子どもたちと仲直りし、時折、楽しそうに談笑していた。
私はその様子を眺めながら、ひとまずは安心したが、心底から安堵感に浸ることはできなかった。

そんなある日の朝、いつも控えめで目立たないミチコが登校するとすぐに私のもとにやって来た。そして、そっと日記帳を差し出した。

障がい者のほうが…
                        
アルバムを見た。マコトの写真。
障がい者であることが分かってからの写真 1枚もない。

小学校に入ったとき マコトの妹だから 障がい者のきょうだいだからって いじめられた。
「おまえのにいちゃん ばかやのう」
マコトがなんかしたの。
マコトに言えないから 妹のわたしに言ってきて 文句を言われたり おこられたりした。

「うちの子に なんかしられんな」
どこかのお母さんからも言われた。

小さいころからの友達は やさしくしてくれた。
学校へ行くのがいやになったこともあった。
障がいのあるおにいちゃんを持ったからだ。
そう思ったことがあったけど もう わたしのおにいちゃんとして生まれたのだから…と思ってがまんした。

障がい者は どこかに1つ 悪いところがある。
そういうこと知ってほしかった。
少しくらいなんかされても がまんしてほしかった。
みんな 自分のおにいちゃんが そういう人だったらと思い 考えてほしかった。

挿絵・金子浩子

つらくて なみだいっぱい流れた。
服がびしょぬれになるまで泣いたこともあった。
自分にこんなきょうだいがいるのが いやだった。
みんながうらやましかった。

でも ほかの障がい者の人たちのほうが もっとかわいそうだった。
いじめられたのが くやしかった。
かなしくてたまらなかった。

いじめた人よりも 障がい者のほうが やさしい心を持っていると思う。
ぜったい やさしい心を持っていると思う。

ハルコの家を訪ねてから、わずか1週間。少し前まで、どの子も険しい顔で騒然とした雰囲気だったクラスは、何事もなかったかのような風情である。
この落差に戸惑っていたのは私だけではなかった。

ハルコに同調し、巻き込まれ、行動を共にしてきた子どもたち。誹謗中傷を鵜吞みにし、仲間外れや無視の泥仕合を演じてきた子どもたち。それをはやし立てたり、見て見ぬふりをしたりしてきた子どもたち。
ミチコは、詩を通して、このクラスに潜む問題に向き合う勇気を私に与えてくれた。

〔付記〕事例はプライバシーへの配慮から登場人物を匿名とし、事実関係についても若干の修正が施してあることをお断りしておきます。
 

 

◆寺西 康雄(てらにし・やすお)◆

 富山県内の小・中学校と教育機関に38年間勤務し、カウンセリング指導員、富山県総合教育センター教育相談部長、小学校長等を歴任。定年退職後、富山大学人間発達科学部附属人間発達科学研究実践総合センターに客員教授として10年間勤務し、内地留学生(小・中・高校教員)のカウンセリング研修を担当。併行して、8年間、小・中学校のスクールカウンセラーを務める。

 現在は富山大人間発達科学研究実践総合センター研究協力員。趣味・特技はけん玉(日本けん玉協会富山支部長、けん玉道3段、指導員ライセンスを所持)。