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悩めるワーママ 私の選択 ①藍染め屋aiya 南部歩美さん

子育てもしたい、でも仕事も、自分の夢もあきらめたくない。悩みながら1歩を踏み出したワーママ(ワーキングママ)たちを取材します。

悩みながらでも1歩踏み出せば、きっとゴールにたどり着く

南部歩美さん

 「中学生と保育園児の娘、そして3人目がこの子」。魚津市に住む南部歩美さん(33)は、そう話しながら甕(かめ)を愛おしそうになでる。中には蓼藍(たであい)の葉を発酵させた染料「すくも」を使って作られた染め液が入っている。それを「藍ちゃん」と呼び毎日様子を伺いながら液の管理と染め作業を行う。藍ちゃんに布を浸すと美しい藍色が姿をあらわす。

 2年前、次女が保育園に入ったのをきかっけに、夢だった藍染めを始めた。当初は昼間に飲食店で働き、家事と仕事の合間を縫って染めていたが、最近はもう少し自分の時間がほしいと、仕事を早朝の新聞配達に変えた。毎日午前2時前に起き、配達と家事を済ませ、藍に向き合う。染め液の発酵具合は日々変わり、うまく染まる日もあれば染まらない日もある。試行錯誤が続く。「手から藍の状態を感じられるので」と素手で染め液を触るため、手はすっかり青く染まっている。

 「うちの藍ちゃんは薬品を使っていないから、手が染まっても心配ないですよ」と南部さん。青い手は、藍ちゃんとの信頼の証でもある。

  藍染めへのあこがれは10年前、北海道の工房で体験したのがきっかけだった。色の美しさだけでなく、藍色が生まれるまでの工程、そして染めた物を暮らしの中で使うことができる幸せ…思いはどんどん膨らみ、6年前、徳島の職人を訪ね基本の技術を8日間かけ教わった。

  ただ現実に戻ると、子育て真っ最中の身。藍染めを始めるにはお金も時間も必要だった。「藍染めをしたい」「子どもとの時間も大切にしたい」「藍染めに使うお金があるなら子どもの将来に備えたい」「でもやりたい」「やって成果がでなかったら」・・・。考えるほど堂々巡りで、「悶々(もんもん)としていました」と振り返る。

  それでも踏み出した一歩が、次女が保育園に入ったタイミングなら、さらにもう1歩を踏み出すきっかけになった出来事があった。

 実は藍染めを始めた当初、南部さんはゴム手袋をして染めていた。当時は飲食店で接客に関わる仕事をしていたため、青い手で食事を出してはお店に迷惑がかかると感じていたからだ。しかし本当は素手で染めたかった。悩んだ末、辞める覚悟で、店のオーナーに思いを打ち明けると「南部さんの藍は自然素材のみで染めた色。もしクレームがきても、しっかり説明するから大丈夫」と答えが返ってきた。

 「自分の藍染めを認めてもらっていることがすごく嬉しくて、自信になった」と言う。そして中学生の娘も同じ反応だった。授業参観の日、青く染まった手を隠すため「手袋をしていこうか?」と娘に聞くと「しなくていいよ。そんなこと気にする人おらんやろ」と言ってくれた。「家族や周りの人たちに支えられて今がある」と強く感じると同時に、自分の手がどうして青いのか、自分の仕事を多くの人に知ってもらう努力も大切なことだと感じ、ワークショップの企画や、外に出掛けて自分の藍染めを知ってもらう活動をするようになったという。

  先日、地元のマラソン大会に出場した。走りながら考えたのは、藍のこと。「悩むこと、大変なこともたくさんあるけど、そこで足を止めたら進まない。一歩でも足を踏み出せば、ゴールに近づく」。今は悩むことも楽しんでいる。