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⑳加害者への怒りの声(新1年生パクくん:その3)【私の出会った子どもたち-いじめと向き合ってきた「けん玉先生」の歩み-】

いじめ、不登校、暴力行為など、さまざまな問題を抱える子どもたち。元小学校長の寺西康雄さんは、彼らとけん玉を通して接することで心の扉を開いてきました。長年の教員生活で出会った子どもたちの姿から「いじめを生まない学級・学校づくり」を考えます。

 新1年生パクくんへの集団いじめを目撃した詩が掲載された学校詩集への反響は大きかった。連日、「詩のコーナー」には多くの子どもたちの姿があった。模造紙に書かれた詩をじっと見つめる子ども。備え付けの原稿用紙に向かって鉛筆を走らせる子ども。…

 私は、放課後、1・2・3階の「詩のコーナー」を巡回し、投稿用ボックスの中の詩を回収した。同僚教師と共に1点1点の詩に目を通した。どの教師も子どもたちの関心の高さに驚くばかりだった。学校詩集を子どもたちに配布するだけではなく、各クラスの授業で取り上げ、いじめについて深く考える機会にしようとの声が上がった。

 若手教師が集まって、自主的な授業研究会が開かれた。学校詩集をもとに「いじめを考える授業」の学習指導案を作成し、各クラスで活用してもらうことになった。

 数日後、全校一斉に「いじめを考える授業」が実施された。その日の内に研修会が開かれ、各担任から授業の結果について報告された。

「本当にこんなことをする人がいるのか」
「パクくんが、かわいそう。私が代わってもいいくらい…」
「なぜ外国の人をいじめるの!仲良くなることの方が大事なのに…」「パクくんは一生、日本をうらむだろう」
「この学校の恥、いや、日本の恥だ」
「本当に強い人は、いじめたりはしない」
「弱い者いじめをする人こそ弱虫だ」

 目撃者の詩に強い衝撃を受けた子どもたち。
 パクくんをいじめる者を強く非難した。
 発言するうちに涙が止まらなくなった子どももいた。
 それぞれが心の内にあるものを吐き出し、聴き合った。

 「いじめを考える授業」の中で、それぞれが抱いた加害者への怒りの声が一編の詩となって、「詩のコーナー」へ次々と投稿された。

 我が子が家に持ち帰った学校詩集に目を通した保護者の反響も大きかった。
 新1年生であり、外国籍でもある子どもを上級生が集団でいじめるという事実に大きな衝撃を受けた保護者から怒りに満ちた感想や意見がたくさん寄せられた。
「一刻も早くパクくんへのいじめをやめさせてほしい」
「保護者としてできることがあれば遠慮なく言ってほしい」
など、学校への要望も相次いだ。

 子どもたちや保護者の声に応えるため、教師は学校の指導方針に基づき、集団いじめを解決すべく必死に取り組んだ。
 その結果、パクくんへの集団いじめは急速になくなっていった。加害者の子どもたちが自ら名乗り出た。いずれも、自分の犯した過ちを深く反省し、二度と繰り返さないことを誓った。一人一人がパクくんに心からお詫びの言葉を述べた。

 問題は、解決に向かっているように見える。しかし、私は新たな不安を感じていた。これで本当に本校からいじめがなくなるのだろうか。

〔付記〕事例はプライバシーへの配慮から登場人物を匿名とし、事実関係についても若干の修正が施してあることをお断りしておきます。
 

◆寺西 康雄(てらにし・やすお)◆

 富山県内の小・中学校と教育機関に38年間勤務し、カウンセリング指導員、富山県総合教育センター教育相談部長、小学校長等を歴任。定年退職後、富山大学人間発達科学部附属人間発達科学研究実践総合センターに客員教授として10年間勤務し、内地留学生(小・中・高校教員)のカウンセリング研修を担当。併行して、8年間、小・中学校のスクールカウンセラーを務める。

 現在は富山大人間発達科学研究実践総合センター研究協力員。趣味・特技はけん玉(日本けん玉協会富山支部長、けん玉道3段、指導員ライセンスを所持)。